ファゴットの吹きかた

ファゴットの吹きかたとはなんぞや、と日々葛藤するブログです。

第15回門下発表会でした。講評とか合宿開催のご案内とか。

こんにちは。「ブログちゃんと更新して」といよいよ生徒に怒られ始めているとのむぅです。暑くなってきましたが、みなさんどうお過ごしでしょうか。僕は暑さに弱いので完全にへばっています。温暖化・・・

 

さて、先日、僕の生徒の門下発表会がありました。早いもので今回で第15回だったんですね。今回は全体的にレベルが高く、会場中が唸るような演奏がたくさんありました。また「初心者」と思われていた顔触れが全くそれを思わせないレベルの演奏を披露してくれたことも、全体のレベルの高さを印象付けてくれました。毎回のように個人がレベルアップしていくと、当然全体のレベルも上がってきますよね。当然と言えば当然なのですが。

今回はサンサーンスソナタを演奏した2人がソロ部門、ピアニストを連れて参戦したピエルネをアンサンブル部門のMVPに選びました。サンサーンス組は最後のレッスンでも曲の美しさと難解さにやられており、課題を多く残していたのですが・・・本番はそれを乗り越え余りあるような演奏を披露してくれました。ピエルネは「息の合った2人」という領域で他の追随を許さない演奏でした。最近ではMVPを意識した演奏をする子もいるようですが・・・たぶん狙って取れるものではなく、それぞれが精一杯演奏に向き合い、それがうまくいった結果でしかないのかな、と思います。

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それにしても、一人残らずレッスンの大きな成果を感じた発表会でした。出演者が僕のところにレッスンにくる回数は1回~5回くらいと幅があるのですが、回数に見合った成果が出ているようにも思えました。やはり「きっちりレッスンにきてソロ曲を本番で吹けば飛躍的に楽器がうまくなるはず」というこの発表会のコンセプトは間違ってはいないようですね。曲をさらうことで得た技術や練習方法を普段の合奏等にも活かせれば幸いです。

 

さて少しご案内を。僕の主宰するファゴットアンサンブルイベント団体「トッポの会。」では毎年合宿を開催しています。僕ともう1人の講師である松本静香さんの個人レッスンとその成果発表会、アンサンブルの練習とレッスンによる発表会を中心とした合宿で、全国から毎年10人以上のファゴット吹きが集まり楽しくやっています。今年は8月10日(土)~8月12日(月祝)の3日間で、静岡県で開催されますので、興味のある方はぜひご参加ください。応募締め切りは7月いっぱいまで、と少し急なご案内で申し訳ないのですが・・・。

詳細のご案内とお問い合わせ・参加申し込み窓口についてはトッポの会。のTwitterアカウントをご覧ください↓

https://twitter.com/toppo_bassoon

 

また次回の門下発表会のご案内です。

2019年11月17日(日)お昼ごろ開演

ノナカ・アンナホール(渋谷駅より徒歩5分)

参加費(レッスン代1回分、ピアニスト謝礼込み)

 ファゴットソロ(学生)10000円

 ファゴットソロ(社会人)14000円

 アンサンブル(1人)6000円

ファゴットソロ、もしくはアンサンブル(他楽器可)団体でお申込みください。レッスンを1回以上受けてくださればどなたでも出演できる発表会です。ご応募は↓から。お待ちしております。

発表会参加・お問い合わせフォーム

 

さて、ここから先は演奏ごとの講評となります。参加者の方以外には関係のない記事となってしまいますことをご了承ください。

 

1.ファゴット協奏曲第1楽章/シュターミッツ

初参加お疲れ様でした。曲選びのとき「様式を学びたい」と言ってこの曲を選びましたね。この曲で学んだフレーズ管理はどんな曲でも生かせる要素なのでぜひ今後の演奏に役立てていってくださいね。

課題だったトリル周りもよく練習してきました。必要なコントラストもきちんとついており、まれにみるハイクオリティのシュターミッツだったと思います。

さてそのコントラストについてですが、音量やタンギング等による変化はたくさんついていますが、それでも、どういうわけか全体的に同じ調子に聴こえてしまいます。厄介な音型でもあなたの持っているいい音色で演奏できているのですが、悪く言えばいつでも同じ「いい音」で演奏してしまう傾向にあるようです。太くてよく鳴るいい音を持っていますが、それだけでは聴いている人に音楽の変化を伝えきることはできません。音色の変化について、もっと研究していきましょう。とある音楽家が「いい音を出すにはいいメロディをたくさん奏でることだ」と言っていますから、今後いろいろなレパートリーに挑戦していくことで得られることもあるのかもしれません。

あ、初参加あるあるですが、礼はピアニストと合わせてしましょう。ピアニストが立ち上がるのを待ってから。地味ですが共演者への礼儀として、とても大切な事です。

 

2.ファゴット協奏曲2.3楽章/ロッシーニ

技術的・音楽的に、課題である安定感はついてきたんだと思います。ロッシーニというある種独特な世界観を持つ音楽をよくとらえて演奏していました。また音色の操作とダイナミクスの変化が良く噛みあっていて、コントラストのついた演奏になっていました。

さて、それでも今回の演奏は心に響く演奏にはほんの一歩及びませんでした。いつもよく練習してきますし、練習の仕方もそこまで間違ってないと思います。では何が問題なのでしょうか。おそらく「客観性」の欠如だと思います。今のあなたのしかける音楽は、少し極端だったとしても間違っていない事が多いのですが、聴いている側には心地よく伝わりません。今後は聴いている側にどう伝わるか、ということに重きを置いて演奏しましょう。そのための技術と感性はもう持ち合わせているはず。

さて3楽章のテンポ感についてですが、レッスンで「転んでいるよ」と伝えた場所が少しずつ悪さをして速くなっています。逆にそこに気を付けていれば後半もどうにかなったでしょう。ピアニストは素晴らしく合わせてくださっているので、「これはまずい」と思ったら大胆に調整するくらいの度胸はあってもよかった。CDで聞くようなテンポ感を実演するのはあまり現実的ではありません。「やりたいテンポでやる」というのが必ずしも聴いている側にとって心地いいテンポ、とは限りません。この手の難しい曲をやるのであればなおさら。

また強奏が基本的に乱暴です。これも「聴いていてどうかな」という意識から改善していけると思います。あなたのファゴットで人を心地よくしてあげられるようになりましょう。

 

3.ディベルティメント/ハイドン

ある種、人前で挑戦するにはハードルの高い作品ですね。1楽章の最初のテンポ感は悪くなかったのですが・・・2拍子としてのカウントが足りてないのでどんどん遅くなっていきました。全楽章を通して、レッスンでさんざん指摘した「語尾」の処理ができていませんでした。趣味の問題、という領域を越えて、古典派作品には「やってはいけない処理」というものがあります。せっかく人にならって木管五重奏を演奏しているのですから、「うーん」と思った指摘を自分の納得いくようにかみ砕く、くらいの気概が欲しいものです。

また1人1人が楽器の鳴りについてもっと敏感であることが大切です。5つも違う楽器が集まっているので、バラバラな鳴りに気づかず進みがちです。常に「どう聴こえているか」「あの人はどう吹いているのか」ということに神経を使いましょう。違う楽器の人の意見こそ、自分にとって最適な指摘であることはよくあることです。長い付き合いであれば、なおさらです。

 

4.バロックスケッチ/スモーリー

小編成の演奏時、チューニングは必要がなければ省略したほうが聴いている方は心地がよかったりもします。どこかでお試しください。

バランスが悪いです。レッスンでも指摘したファゴットのよく悪くも「いい音」に対してヴァイオリンの鳴りが悪い。ファゴットコントラストがほとんどないし、ヴァイオリンは弓の音が聴こえてきません。何もかも違う2つの楽器なのですから、鳴りの違いにはもっと敏感でいないといけません。基本的にはヴァイオリンの旋律とファゴット通奏低音で構成されている作品なので、バランスが悪いと聴いている側はどこに耳を傾ければいいのか分からなくなってしまいます。もっと自分たちの演奏を客観的にとらえましょう。「仲がいい二人の二重奏」というのはある種、すごく高いハードルが用意されてしまいます。「仲がいいのに合わないの?」と言われてしまわないように、1人1人がもっと技術的に足りないものを得られますように。アンサンブルなんてしょせん個人技次第です。

繰り返し後に装飾を入れるのはいいと思います。が、「なんかごにょごにょとやったようだ」と思われるような装飾は逆効果です。入れた装飾はすべて一瞬の超絶技巧です。付け焼刃にならないように。

ファゴットはやはり独学の限界を感じます。おそらくあなたより技術的に格下であろう子たちが立派に演奏しているのを聴いて、なにか思うところもあったのではないでしょうか。楽器はうまく吹くのが一番面白いです。ご連絡お待ちしてます。

それにしてもこの曲、よく見つけてきましたね。何人かの知人に聞きましたがこの曲を知ってる人は1人もいませんでした。曲に対して想いはあったんだと思います。僕にはそれは伝わってきますが、他のお客様にはどうだったのでしょうか。想いを形にするのが技術です。

 

5.レチタティーヴォアレグロ/ギャロン

聴き映えのする作品、ということを差し引いても名演でした。力任せだった部分がなくなりました。色彩感もとってもよく出ていて、聴いていて心地よかったです。低音~中音はかなり良いのですが、五線の上あたりから、少しピッチが不安定なようです。楽器のハンデがあるとは思いますが・・・もう少し気を使いましょう。

速いパッセージのとき、最初と最後はいいのですが真ん中の音がすっ飛ばされて聴こえる事が多いです。運指が簡単な部分こそ丁寧に練習しましょう。和声を決定づけている音を特に丁寧に。そうすることで見えてくるフレーズの歌い方もあるはず。

中間部、オブリガードに回るところのバランス感覚は本当に素晴らしかったと思います。オケだとバランスを取るのに必死ですが、ピアノと1:1だとそういった箇所もたくさん歌えていいですね。

少しコントラスト不足でした。弱奏部はじゅうぶん綺麗だったのですが、強奏部はもっと荒い音があってもよかったのかも。荒い音を力任せではなく出す、というのを今後身に付けていくといいのかも。

 

6.ファゴットソナタ/ヒンデミット

息の合った二重奏、に聴こえました。本番は。笑 ここまでくるためにしてきた技術的な問題のクリア、というのが、アンサンブルをやる上で共演者に見せることができるたった一つの誠意なんだと思います。簡単じゃないですね、人と合わせるということは。

楽器の性能の活かし方がよく分かってきたようです。もっと楽に吹けるリードでも楽器はじゅうぶんに鳴ってくれますから、試してみましょう。リードを選ばずに済むのがいい楽器の特徴です。

「絶対にキメて!」と言った音程箇所、まぁなんとかなっていました。キメるためにはその前をきっちりと。よく理解し取り組んでいました。

それにしても難しい曲ですね。よく理解し取り組んでいますが、もっと音楽的にアンサンブル的に攻めた箇所が聴きたかったです。合わせる事、理解することに精一杯、という印象でした。そこまでいければアンサンブル部門MVP確定でした。

とにかくピアニストというものは音楽家としてぜったいに格上です。格上の共演者を生かす、ということに執着するというのはオケでも同じなはずですから、今後合奏への取り組み方も変わってくるのではないでしょうか。

 

 7.ファゴット協奏曲1楽章/ウェーバー

初参加お疲れさまでした。ファゴットだらけのおかしな環境の中、ステージさばきが堂々としていてとてもよかったですね。

ある種お手本のような、正統派の演奏だったと言えます。基本的な楽器の鳴らし方はかなり定着してきました。作品の魅力もじゅうぶんに引き出せています、とんでもなく難しいパッセージが少しずつできるようになっていく感覚、自分でもずいぶん面白かったのではないでしょうか。本番でできたかどうかは、まぁ、ともかく。笑

さて、一方で、良くも悪くも優等生すぎる演奏だった、とも言えます。聴いている方がいい意味でドキドキハラハラするようなシーンは1か所もありませんでした。それは安定している、とも言えますが、仕掛けが少ない、とも言えます。もっと自分で思う音楽を外に出して。レッスンで出してくれれば、それが素敵なのかおかしいのか、きちんと教えてあげられます。どこまで守りに入った演奏でも、ミスは必ずおきますから、それなら攻めの姿勢を取りましょう。ダイナミクスのレンジも、まだまだ十分とは言えません。まだまだ始まったばかりです、もっとファゴットを面白く吹けるようにまた一緒に頑張りましょう。

 

8.ファゴット協奏曲2.3楽章/ウェーバー

以前からそうですが、音楽への取り組み方が僕はとても好きです。守りに入るようなシーンがなく、聴いていて飽きのこない演奏ができる、というところはあなたの最高の長所です。大切に育てていきましょう。

さて基礎的な話になりますが、ビブラート(震え?)が少しおかしいようです。まず小刻み過ぎること。あまり効果的に響いてはくれません。まず真っすぐ丁寧に音を出し、その加工としてビブラートを用いる、ということに執着すると、もしかしたらしばらくビブラート禁止で練習するといいかもしれません。本来持っている楽器のいい響きがかなり殺されてしまっています。せっかく面白い音楽を出そうとしているのに、自分で遮ってしまっています。これはもったいない。ちょっとリードも合わないのかも。響きが下がりすぎる割にキャパの狭いリードになってしまっているようです。

また、水が詰まったまま演奏するクセは大変に良くないです。ボーカルの水だけ抜いても無意味ですから、きちんとトーンホールから抜きましょう。本番前にきちんとスワブを通すのも大事な事です。水が水を呼びますから、習慣が大事です。

3楽章はよく練習してきました。技術的に不安を感じる箇所は少なく、この曲でそこに至れたのは凄いことです。が、コントラストはほとんど伝わってきませんでした。連符へのコントラストは後付けしようとすると結局付けません。必ず遅くさらっている時から丁寧に仕掛けをしていくのです。指と舌が動くことに満足しないで。とてももったいない演奏になってしまいました。

 

9.ファゴット協奏曲1楽章/ウェーバー

レッスン不足はこちらにも責任がありましたが・・・。その割に、自分でよく考え練習したのだと思います。初めて会った時から指摘していた単純な練習方法についてはもう心配しなくても良さそうです。曲についてもよく理解しよく考え演奏できていたと思います。細かいミスがあまり気にならない演奏でした。

音が出てから音程を探るクセがあるようです。聴いている方にはかなり印象が悪いので気をつけましょう。出た音をただ伸ばす、というのも大切なことです。

ウェーバーの必修事項である速いタンギングは残念ながら身に付かなかったようです。なんとか追いついてはいるのですが、残念ながら「ヴィルティオーゾ」には聴こえないタンギングを最後まで用いてしまいました。この辺は準備不足が出てしまいましたね・・・。

ところで、ソロの時とアンサンブルの時で音の質が全然違いますね。ジャンルの問題もあるようですが、アンサンブルで真価を発揮するタイプのようです。それはとても素敵な事なのですが、アンサンブルをよりうまく(楽しく)やるには個人技を身に付けるほかありません。もっとあなたの音を光る手段を模索して。センスでねじ伏せてしまわないで。

 

10.ファゴット協奏曲/ウェーバー

ドレスが良く似合っていますね。さすがに着慣れてきた、というところでしょうか。

伸びやかな音がこの曲をより輝かせていました。技術的な安定感がきちんと音楽への表現へと生かされていて、大変好印象な演奏です。

歌う箇所についてもよくできていますが、おそらくまだ自分の中で飲み込めてないフレージングがあり、精度が高い演奏だからこそそれが目立ってしまう印象でした。2楽章を中心に、もっと研究というか音を体に入れるような作業があるとよかったのでしょうか。

いつもながらと言いますか、さすが、といいますか、とにかく安定した印象であるのですが、ある意味で惰性のようなものを感じる箇所も少なくありませんでした。7人連続、ということは関係なく、どこか「なあなあ」な部分があったのではないでしょうか。よく知った作品だからこそ丁寧な、あなたのファゴットで聴きたいものです。「はいどうぞ」だけではなく、「どうだ!」「どうでしょうか?」「要ります?」みたいなアプローチがあったらもっと面白かったな。

 

11.ファゴット協奏曲1楽章/ウェーバー

直接話しましたが、とにかくステージ上での笑顔が素敵でした。実は僕もソロのステージってどうにも嬉しくってしょうがなくなってしまうので、心情がよく分かります。ある種の開き直りでもあるのだけど。笑 メンタル面をすごく心配していたのですが、とても演奏者向きの性格をしていると思います。大事な長所です。

「雑なところをなくせ」と、とにかくレッスンで指摘し続けてきました。30点の音を出すな、雑に練習するな、違う、そうじゃない、など、引き算のレッスンが多かったこと、少し僕も反省しているのですが・・・。でもどうやら効果はあったようで、恐らく本番のような演奏をレッスンでしていればいい具合に足し算のレッスンが始まったと思います。悪い癖がたくさん抜けてよかった。

しかしながら、この曲で習得すべき「速いタンギング」はまだまだ安定しませんでした。止めるタンギングだけでは速度は出ません。そのための練習の仕方も教えたはずなのですが・・・定着しなかったようです。そこが残念でした。どの曲でも使えるアプローチだと思いますので、また別の作品で習得できるように頑張りましょう。

 

12.ファゴット協奏曲1楽章/ウェーバー

色々なウェーバーをさんざん聴いたあとの演奏、プレッシャーはあったと思いますが、ステージ慣れによるものなのか、堂々としていて素晴らしかった。楽器のポテンシャルも生きてきて、いよいよ「上級者たち」の入り口に立った印象でした。この曲は難解な箇所が常に重要箇所で、目をつぶっていては曲の魅力が一切発揮されないのですが・・・。難解な箇所、本当によく練習しました。どのくらい時間をかけたかは知りませんが、いい時間を過ごしたことと思います。

課題としてはタンギングの種類が一辺倒であること。決して痛いタンギングを用いているわけではないのですが、元々音量の変化に乏しい楽器なので、タンギングの種類での印象操作がとっても大切になってきます。発音の強さ、弱さに実際の音量を掛け合わせてようやく変化が聴いている人に伝わります。強いタンギングを覚えると共に、実体がないくらい柔らかいタンギングも覚えればもっと豊かな音楽表現がのぞめるでしょう。

この曲に必要な「速いタンギング」はじゅうぶんに習得できています。理論上、これでもうどんな作品でも吹けます(さらえます)から今後が楽しみですね。

 

13.ファゴット協奏曲2.3楽章/ウェーバー

誰が聴いても分かるコントラストの変化がとにかく魅力的な演奏でした。少し粗削りではありますが、そこまで変化をつけていても決して過剰にならない、というのは素晴らしい感覚を持っているからです。2楽章、3楽章ともにその感覚がいかんなく発揮された演奏でした。

2楽章のカデンツァは少し遅い方に仕掛けを作りすぎです。伸び縮み、という言葉がありますが、伸びっぱなしでは魅力的でないので、縮む方ももっと。

3楽章もコントラストは見事でしたが、簡単な指ほど転び鳴らない、トリルがやたら大きく前後が小さく聴こえてしまうなど、客観性に欠ける箇所が少なくない演奏になってしまっていました。技術的には克服できていたので、より丁寧な練習を心掛けましょう。結局のところ積み上げた分しか人の心は動かせないものです。

弱い方のダイナミクスで音程がブレないのは素晴らしいので、強い方のダイナミクスでも音程をもっと気にしましょう。油断が見えます。

 

14.ファゴット協奏曲1楽章/シュターミッツ

脱・初心者、と褒めるのが失礼なくらい立派な演奏でした。この曲をあのクオリティで吹けるようなレベルのファゴット吹き、そうたくさんはいませんから、ぜひ自信を持ってくださいね。

古典派特有の「ルール」みたいなことと技術面を中心にレッスンしました。どちらもかなりハイレベルにクリアしていますが、発音が「すごく強い」か「ほぼ前の音とつながっている」のどちらかになってしまいます。楽器のコントロールがまだ難しいとは思うのですが、自分の発音する音が音楽に適しているかよく聴きながら練習するようにしましょう。

コントラストも十分についていますが、弱い方がもっと広くなるといいと思います、特に合奏においては楽器のポテンシャルが悪い方に発揮されがちな状態です。今は目指す「いい音」を、楽器の鳴りだけでなく溶ける音を意識するといいと思います。

運指が複雑な箇所(音域が上がってくると特に)で少しぼろが出るようです。ギリギリそれらしい音は出るのですが、おそらく指を間違ったままなんとかしている、という印象の箇所が少なくありません。この曲はまだその手の音域が多くはないのですが・・・オケだとそうもいかないでしょう。Fより高い音を出し慣れていきましょう。スケールの3オクターヴ目もぜひ少しずつ慣れていきましょう。

 

15.ファゴットソナタト短調より1楽章/ドゥビエンヌ

もっとも心配なメンツの1人だったのですが・・・。予想外にハイクオリティでビックリしました。ピアニストのリアクションももっともです。

コントラストがハッキリついていてよかった。音質を損なわない強弱、というのは簡単ではないのですが、この曲を練習するうちに身に付いたようです。難しい箇所もよく練習したのがわかる名演でした。それがバテているはずの後半でも安定感を失わないのはいい練習をしたからだと思います。今回つかんだ日に日に「できるようになっていく」快感を忘れず、今後出会う譜面すべてに今回のような時間の使い方ができるように。

一方で、仕掛けとしての強弱はよくできているのですが、フレーズとしての強弱といいますか、音楽の濃淡みたいなものが見えづらい傾向にありました。安定しているけど、悪く言うと単調な演奏に聴こえてしまいます。そこまでレッスンで立ち入る余裕がなかったのは確かですが・・・。単純に短調の部分は暗く、長調の部分は明るく、といった具合に、音符から伝わる音楽をより映えさせるような工夫がもっとできるとよかった。でもこれは壮大な高望みであると思うので、そんな高望みができるレベルの演奏だった、と思います。この演奏が自信になりますように。

 

16.ファゴットソナタ1楽章/グリンカ

グリンカソナタ、うちの発表会では人気が高くよく演奏されていますが、歴代最高のクオリティだったんじゃないか、と思います。技術的、音楽的に本当に高いレベルの演奏でした。何よりこの曲特有の美しさ、妖艶さみたいなものがよく発揮されていました。コントラストが心地よくついており、決して過剰ではなく、聴いていてうっとりするグリンカソナタでした。

レッスンで課題とした後押し(による聞こえ遅れ)もかなり改善されていると思います。今の吹き方で合奏にのぞめば変な指摘は受けずに済むのではないでしょうか。一方で、ピアニストと1:1の室内楽としては少し魅力に欠けました。合わせ1回でピアニストとの対話まで持って行くのは難しいとは思うのですが・・・まだ「人見知り」という印象が抜けません。ピアノによく乗っかってはいますが、自ら運ぶようなアンサンブルは聴こえてきませんでした。例えばこの手の曲なら、正面と言うよりは斜め前を向き、視線ひとつでピアニストの顔を見れるような向きで吹くといいのかもしれません(僕は基本的に何の曲でもその立ち位置で演奏します、ピアノを聴くのがあまり得意でないので)

また音色が、強奏時に少し開きすぎてしまうようです。まとまった強い良い音を持つとその音は1500人のホールの端までよく飛んでいきます。ぜひ意識してみてください。

 

17.ファゴットソナタ2楽章/グリンカ

譜面としては世界初演、でしょうか。ファゴットとしての音源のない作品であることを感じさせない、よく理解した演奏でした。よく読みこんでいる、と言えばいいでしょうか。

他楽器の作品ということもあり音域が低く歌いづらい箇所も多かったと思いますが、その不自由をあまり感じない演奏でした。技術的にも一皮むけたように思えます、やはり美しい旋律というのは人を成長させますね。

ビブラートの使い方も大変よかったと思います。楽器の響きを殺さない今のようなビブラートならどんなシーンでも使えると思いますので、それに頼ったフレーズの作り方も今後ぜひ試していきましょう。

一方で強奏時、楽器のキャパシティを越えるところまで鳴らしてしまうこともあるようです。楽章単位で1~2音、ならアリかなとは思いますが・・・。今回のような小さなホールならいいのですが、もう100~200席増えてくると逆に響きが死にあまりよく聞えなくなってしまうので、多用は厳禁です。気を付けて。

 

18.ファゴット協奏曲/モーツァルト

自分の演奏です。この作品を演奏するのは一体何回目なんだ、と思いながらも、生徒の前でやったことはないな、と思い取り上げました。「どれだけ運営に追われても自分も必ず1曲吹く」というルールのもと、毎回1曲やっているのですが・・・。この作品ほど精神的・肉体的に体調を問われる曲もないもので。笑 正直、すごくキツかった。

しかしひとたび「しっし~」と吹いてみると息が入る入る。慣れ親しんたピアニストのサポートもあり、正直とても気持ちよく演奏ができました。結局土壇場で我々は音楽とファゴットに救われるんですね。

(うまくいけば)1か月後にまた演奏機会があるのですが、ホールの規模がもう少し大きくなるので、それを意識した鳴りを作れればいいなと思います。

 

19.ファゴットソナタ/プレヴィン

ゲストによる演奏です。

圧倒的ななにかを見せてくれぃ、とお願いしたようなしてないような。ハマり役といいますか、期待以上の面白いものを聴かせてくださいました。皆にもいい刺激になったようです。

次回のゲスト枠は少し趣向を変えてみる予定です。皆さんお楽しみに。

 

20.ソナタ第3番/ヴィヴァルディ

これまたゲストによる演奏です。

バロック作品のレッスンで「バスの進行うんぬん」と口を酸っぱくして言ってきているので、該当者には刺さる演奏だったことでしょう。それにしても難しい曲だ・・・

 

21.ポルトゲーザ/ビュッセル

一皮むけた、という印象です。僕の少ない語彙力で表現するのであれば「上手い」から「抜群」というところでしょうか。ころころと場面の変わる曲ですが、丁寧にそれに対処し、色彩感がある演奏でした。

テンポがフリーな箇所になるとカウントが雑になる癖があるようです、指が回ってはいるのですが聞き取れない音が何個かずつあるため慌てた印象になってしまいます。逆にテンポがあるところは基本的に丁寧に吹けているので、もしかしたらカデンツァの類に弱いのかもしれません。無伴奏作品、とまでは言いませんが、バロック時代の作品に取り組むといいのかも。

音楽的な時間の使い方もすごくうまくなりました。強引にインテンポで音符を入れ込むのではなく、たっぷり時間を使う、という事を覚えたので今後より難解な作品にも挑戦できそうです。

恐らくセッティングの問題ですが、最低音域はもっとしっかり鳴らせないと作曲家の意図通りに音が出ません。前半をこのくらい軽く吹けるリードで、低い音域もしっかりコントロールする技術を身につけましょう。ヒントはリードをくわえる位置の調整にあると思います。

 

22.演奏会用独奏曲/ピエルネ

アンサンブル部門MVP、という異例のチョイスでした。あまりこのパータンは無いのですが・・・。「仲が良いふたりのアンサンブル」というのは、そのふたりのことをよく知らない人からすると、ある種内輪ネタといいますか、別に「だからなんだ」という風になりがちなのですが。息があった、というより、分かり合った上で仕掛け合う、という箇所がたくさんあって大変面白かったです。

ファゴットへの課題はきちんとクリアされ、それにこたえる形でピアノの演奏も洗練されていて素晴らしい演奏でした。僕はあまりピエルネが好きではないのですが、ちょっと好きになりました。なるほどピアニストとの対話次第では面白い曲になりうるな、と思えるようになりました、ありがとう。

さて、ピアノという偉大な楽器と対話がたくさん見えて素晴らしかったのですが、恐らく自分でも思うところはあると思いますがコントロールがまだまだ足りていません。特に後半のテンポ感についてはお互いがお互いを煽ってしまい肝心な部分でやりたいことが仕掛けにくくなっていました。6拍子というのは魔物ですね。もっと丁寧なカウントがあるとよかったのかもしれません。もちろん、もっと馬力が欲しいシーンはたくさんありました。馬力というよりは響きでカバーしてはいるのですが・・・もっとパワーも欲しいですね、研究しましょう。

それにしても名演ピエルネでした。つぎピエルネをやる人へのいいプレッシャーとなることでしょう。

 

23.古都三景/髙島圭子

今回の特別企画、フォックス製ファゴットによる四重奏でした。原曲はトロンボーン四重奏のこの曲ですがファゴットでも大変いいサウンドとなりました。

フォックス同士、ということで特に楽だった部分が、いい意味で音色のすり合わせが必要なかったところでしょうか。またファゴットアンサンブルにおいて最も難しいバランス作りも弱奏の得意なメンバーがうまくやることで比較的取りやすかったと思います。今度はコントラ入れてやれたらいいですね。

 

24.ポップスイート/フッケンポール

こちらはシュライバー製ファゴットによる四重奏。こちらはユーフォニアム・チューバ四重奏の作品のようです。今回の特別企画が「シュライバーとフォックスの聴き比べ」だったわけですが・・・皆さんにはどう聴こえたのでしょうか。僕には「けっきょくどんな楽器も使い様」という結論しか出ませんでした。笑

それぞれに答えがあっていいような気がします。それはそうと、この四重奏メンバーはアンサンブルで真価を発揮するタイプばかりのようです、ソロの時にもっとそーいう音が出ないかな・・・と、先生としては嬉しいようなさみしいような。

 

25.悲愴三重奏曲/グリンカ

ハードルの高い作品だったと思います。演奏クオリティは歴代アンサンブルエントリーの中でもトップクラスだったのではないでしょうか。アンサンブルなんて結局、うまいメンツですり合わせさえすれば必然的に名演になる、という僕の持論はまさにこーいうことを言いますね。笑

さて間違いなく名演である一方で、僕の心にはあまり深くは刺さりませんでした。まず音色の傾向が2人で全然違うこと。クラリネットは浅く明るいのですがファゴットは深く暗い。良し悪しではなく、2人とも常に同じ位置で演奏しているので交わることが最後までありませんでした。それゆえに、聴いていて飽きがくる演奏になってしまいました。「ここでこーいう音(色)を出したい!」という音楽をやる上で最も基本的な欲のようなものがあまり2人ともないように思えます。僕は音色より音質やコントラストが大事だと考える人間ですが、その僕が音色について指摘する、というのはけっこう深刻な領域なんだと思います。クラリネットはもっと深い音を、ファゴットはもっと明るい音をシーンによって出せばもっと人の心に響く演奏になっていた、と思います。他の精度が高いだけに、惜しかった。

タイミングやテンポ感については完璧に近かったと思います。それだけに、惜しかったなぁ。

 

26.ファゴットソナタヘ短調3.4楽章/テレマン

まさかのトラブルに心を揺さぶられなかったのがまずとても立派でした。度胸と言うのは天賦の才ですね。

ブランク明けを思わせない名演でした。バスの進行をよく理解した上で曲の流れをよく表現できていました。コントラストや音色の操作も抜群で震えるシーンがたくさんありました。懸念されていたバテに関しても、まぁなんとかぎりぎり、吹ききれましたね。しかしこの曲にはよりキツい1~2楽章が本来ある、と思うとゾッとします・・・

さて、足りないものがあるとすれば自主性と欲でしょうか。「私はこうします!」というより「こう習ってきました!」という演奏でした。門下発表会、ですからある意味正しいのだけど、僕はもっとみんなに好き勝手やってほしいと思っている人間です。(それも付き合いが浅いのでイマイチ伝わらなかったかもしれませんね)よく言えばお手本(それもこれ以上ない高精度の)のような、悪く言えば聴いたことのあるような演奏、でした。音楽をするというのは個を磨く行為だと思います。次の目標は「個性」ですね。また楽しみにしていますね。

 

27.ファゴットソナタ/メルチ

まず基本的な音色・音質がとても良くなりました。音域問わず楽器がきちんと鳴っていて、結果として音程がちゃんと取れるのでピアノとよく共鳴していました。バロック作品特有の、バス主体による進行もよく理解しフレーズを組み立てていました。やりたいことがきちんと伝わる演奏、というのは思いのほか難しいものです。もう現役時代よりはあらゆる点で上手く演奏できているでしょう。ブランク明け、という注意書きは剥がしても良さそうです。

さて、聴いている方にも準備というものがあります。チューニングして構えて吹くまでが早すぎます。ピアニストがビックリするほどでもないですが、心地よい間というのが取れるともっとよかったです。特にアウフタクトが大切な楽章から始まるのですから、最初がとても肝心なのです。そこらへんはステージさばきみたいなものですね、プロのステージを見てみるといいと思います。逆に聴く側に準備をさせないまま始めてしまう、という仕掛けもあるくらいです、それはそれで、面白いですよね。

アンサンブルに取り組むための技術的な準備は、じゅうぶんだと思います。楽しみにしていますね!

 

28.ファゴットとピアノための組曲/タンスマン

ゲスト奏者内友人枠、の演奏でした。笑 もはやN島枠、と呼んでもいい気がします。

曲の始まりのクオリティが高く、それだけに速い部分が惜しかったですね・・・。一見すると技術的にはなんとか吹けてしまうこの作品ですが、合わせるとなると一大事です。メンタルのコントロールやアンサンブルの経験はもちろんですが、「なんとか吹ける」という領域を脱していたらもっと結果は違ったのかもしれません。リズムで某先生に絶対に怒鳴られないような余裕を持てるところまで持って行けば、あるいは、といったところです。言葉とリズムの曲ですから「何を言ってるのかキッチリ伝える」ことでアンサンブルは飛躍的にやりやすくなります、自分もピアニストも。それにしてもこの曲は作品としての完成度が高いだけに、ほんとうに難しいですね。

 

29.六重奏曲/ファラン

この編成をやるには少し会場が小さかった気もしますね・・・。配置に関してはよかったと思います。

さて、レッスン時は指摘によってみるみる変化があり本番の演奏をすごく期待していたのですが・・・1週間でかなり忘れてしまったようです。要因はそれぞれ色々あるとは思いますが、レッスンで受けた指摘や合わせ時に決めたことをきちんと自分が分かるように譜面へ書き込むようにしましょう。譜面を見たわけではないですが、よく丸を書いて終わり、という書き込みを見かけますが、あれは5分後には何のマークだったか忘れます。必ず具体的に、どういった注意をすればいいのか書き込みましょう。言葉でもよし、記号でもよし。そういったことを怠ると、いくら合わせしたりレッスンを受けても本番に活かすことはできません。僕はファゴットの生徒に、楽譜にただ丸を書くのを禁止していますよ。

さて5つ、いや6つ違う楽器がそろうアンサンブルというのは難しいものです。ある意味でバランスが悪くて当然、合わないのは必然なのですが・・・本当にそうでは合わせやレッスンの意味がなくなってしまいます。同じフレーズを担当している他のパートの人とのフレージングのすり合わせ、バランスが悪いんじゃないかと疑い提案すること、もちろん音程やリズム、音の長さや処理などを統一するのに同族アンサンブルと比べたらものすごく苦労します。時にはクラリネットのようなオーボエの音、ホルンのようなファゴットの音、フルートのようなピアノの音が聴こえないといけないかもしれません。その苦労があまり見られませんでした。好きに吹いて(弾いて)いるだけでは魅力的な演奏はできません。

元々木管五重奏というのは、「木管」なんて呼称はつかずに「管楽」という呼称でした。ダンツィやライヒャの時代に旋律を担当する管楽器といえばこの5本だったわけで、現代では金管五重奏に対して木管五重奏、と呼称するようになった、という歴史があります。つまり、元々は管楽器を5つ集めた、と言うだけに過ぎない編成なのです。苦労無しには合いません。でもその苦労そのものが面白く、魅力的なので、レッスンでできる限りのことはお伝えしたつもりだったのですが・・・。僕は少し寂しかったです。

とはいえ、個人の領域では6人ともかなり高い水準で演奏できていますから、今後は他の楽器とのアンサンブルの仕方をよく考えるとより楽しく演奏できるでしょう。

 

30.民謡風小品より/シューマン

(ようやく?)安定感が少しずつ出てきた、と思います。良い部分に関して、「おっいいぞ」というより「うん、さすが」という感情で聴けるようになりました。また、楽器のポテンシャルが活きてくるようになったのは大きな進歩です。音程もかなりいい方だと思います。

1曲目で伴奏に切り替わるときにピアニストから拍子感を受け取れなかったのが残念でした。ズレてしまった、というより、きちんとバトンタッチできなかった、のだと思います。逆にそのバトンタッチシーン以外はあまりピアニストに気を遣わず吹ける楽章ですから、そこだけきっちり体に入れておくべきでした。

技術的には、もっと広い空間を意識して演奏するといいですね。視線や気遣いの範囲が自分の半径30cmくらいだけのように見えます。大きくない会場だったからこそ、自分の音がどう響いているか聴きながら吹くだけで音の伸びが違ったかもしれません。

譜面づら以上に難しい作品なのだと思います。うまく聴かせるのが難しい曲、をわりといつも選んでしまうので、一度めいっぱい聴き映えのする作品を選ぶといいかもしれませんね。ピエルネ、ギャロン、ブルドーあたりでしょうか。

ファゴットに(公でも私でも)すがって生きるの、悪くないですよ。

 

31.ファゴットソナタ/サンサーンス

抜群の出来でした。サンサーンスの呪いによく負けなかったなぁ、と素直に関心しています。

フレーズの末尾が「言い切り」になってしまうクセがあるようです。先に繋がっていくのか、きちんと収めるのか、言い切るのか。この3択だけでいいのできちんと考えるようにしましょう。それだけで幅が生まれてくると思います。

技術的にはかなり完成度が高かったと思います。この曲に負けずに技術で完成させる、というのは簡単なことではありませんからそれだけで大変立派です。逆に言うと、もっと音楽のことに執着して時間を使ってほしかった。当日のコンディションによるところもあるとは思いますが、もっと丁寧に組み立てられる部分もたくさんあったんじゃないかな。この大曲を全楽章演奏する、ということに、ある意味でもっとこだわってほしかった、というのが僕の正直な気持ちです。

さて付き合いも浅いので言い切れる部分ではありませんが、レッスン時に感じた事ですが、人から受けた指摘を家に持ち帰る癖があるんじゃないでしょうか。その場で変わろうとするのではなく、持ち帰り噛み砕いてから自分の糧とする、というのを前提にレッスンを受けてはいないでしょうか。もちろん、持ち帰るのは大切です、噛み砕いて呑みこむのも大事ですが、その場で変わろうとする、という力もとっても大切です。なぜなら僕らはその場での変化を見ながら与える情報を変えていますし、オケのリハーサル等ではその場での変化が一番重要です。もっと言われたことを大胆にその場で試し実践してみることです。ひと言でいうなら、レッスンでもっと恥をかきましょう。カッコよすぎるのも考え物です。

 

32.デュエッティーノ/ボザ

僕と、出身大学の学生による二重奏です。

仕掛けを大げさに仕掛けることで聴いてる人を「だます」というのをテーマに演奏しました。この子は若いのに本当によく分かってよく聴いて吹きます。すごいことだ。

 

33.2つの小品/フランセ

MVP!にしようと思ったんだけど。繰り返し後、あのテンポ感でテクニックが整っていたら間違いなくMVPでした。発想は大好きだし面白くてしょうがなかったけど、「よい子はマネしないでね」という意味でMVP避け。

練習時間は推察できませんが、練習時間の使い方がまたちょっとうまくなったんじゃないかなと思います。音楽の仕掛けとテクニックを両立して練習できるようになっています。レッスン時に課題だったビブラートの幅もだいぶ改善され、まっすぐ息が入るようになりました。しかし真っすぐな息に慣れていないためか、音程をさぐってしまうようになってしまったので、もう一皮むける必要があるのかも。ビブラートというメッキがなくなっても、自分に100点をつけてあげられる音質を目指しましょう。

音楽の流れは大変面白く、この曲の魅力はすべて客席に伝わったと思います。速い方の1回目、2回目への布石なのはわかりますがスピード感も死んでしまったのが少し残念でした。同じテンポの中にもスピード感の有無を調整できるといいですね。

それにしてもレッスン時「ここ難しいね~」と言ったところが本番できちんとできていること、いつもながら本当に尊敬します。本当に丁寧なさらい方に関しては門下内随一、さすがといったところです。

 

34.タンゴ組曲より/ピアソラポルカインスイング/フォアート

ファゴット四重奏、3団体目。メーカー違いはそこまで重要ではないみたい。

さて同じ楽器が4本も揃うとどうなるか。メンバー同士によるレベルの違いが明確に出ます。他人がどうこう、はともかく、自分がどうだったか、よく考えましょう。それぞれがきちんと準備し練習してきたのはよく分かるのですが、それで出てしまう残酷なほどの腕前の差、というのは、オケをやってれば今までも経験済、ですよね。

他のアンサンブル団体にも書いていますが、アンサンブルをよくする方法なんてしょせん、個人個人がうまくなること以上に手っ取り早い手段はありません。個性、という言葉がありますが、レベルが拮抗してはじめて個性と言うのは見えてきます。僕もアンサンブルのレッスンでは個人に立ち入れる領域が限られてきますから、あえて講評では個人技について少し容赦なく触れてみました。

もうこれ以上準備することはなかった、ともし思うなら、一度でいいから僕のところへレッスンに来てください。4人とも、練習方法も奏法も簡単に改善され別人のような音を出す素質がまだまだまだまだあります。連絡先はどこかから入手してください。

アンサンブルとして言うことはあまりありません。聴いていてつまらない演奏なんてことは決してないし、1人1人がちゃんと輝いてはいましたが、それぞれの伸びしろを思うと「もったいない!」という気持ちでいっぱいになりました。

 

35.ファゴットソナタヘ短調3.4楽章/テレマン

もう初心者なんて誰も言いませんね、アンサンブルも無事こなせていました。念のため言っておくと、楽器をうまく吹くためのステップはここからが長いです。人並みに無難に吹ける、というところから、うまく吹ける、というところは近いようですごく遠く、地味なことの連続に思えるかもしれませんが、あなたはここまでも地味な事の連続に堪えてきていますから、きっと大丈夫だと思います。

さて今回の演奏ですが、技術的音楽的によく練習・研究してきました。ところどころ不安定な音程はありながらも、この曲を流れを止めずに吹けるのはなかなか立派な事です。ステージさばきも本当に良くなりました。最初は「礼をする!」というところからだったもんね。

今後の課題はよりたくさんの譜面を読んでいくことに尽きるとは思いますが、もう技術的に、吹けない曲は理論上ないということになりますから、今後ソロ曲は自分で探し選びましょう。もちろん相談には乗りますが最低でも候補は自分で見つけてきましょう。これだけたくさん演奏を聴けば「これならできる」「いつかこれをやりたい」って曲も出てきているはずですから。

 

36.3つのロマンス/シューマン

直接も言いましたがブレス!あれほど計画的に、と言ったのに・・・。悪癖は簡単には抜けないようです。息継ぎというのは生命活動ですから、かなり意識的に操作しないと改善されません。逆に言うと、意識的な操作がないと管楽器奏者としてはいつまでも未熟なままで、それでもファゴットという楽器、他の木管に比べると足りなくもなりづらいし余ったりもしない楽器ですから、この手の曲に挑むときくらいしか改善するチャンスがないのです・・・・。実にもったいないことをしました。

と、ブレスのことはさておき。サンサーンス組がいなければこれまたMVP候補でした。この曲独特の色彩感がすごくよく出ていて、僕はアマチュアファゴット吹きでここまできちんとこの曲を吹ける子を他に見たことがないです、大変立派でした。

バテてくると音程が下に行くクセがあるようです。普通逆(その結果本当にばてて音が出せなくなる)なのですが、下に行く人の方が気になりづらい反面、改善も難しいです。ばてた状態でも頭だけは冷静に、今の自分の音の傾向とその対策を練る、ということをしましょう。それは合わせの時にしか試せないかもしれませんね。

と、キツイ曲はぜひ楽章間をたっっっぷり時間を取りましょう。なにしたらいいか分からないのであれば、詰まってもいない水を抜きましょう。まだまだソロのステージ慣れはしてないと思いますが、楽章間をもっと時間空けていればやりたいことがもっとできたかもしれません。

3楽章の前半、ぜひ何度も録音を聴いてみてください、本当にいい演奏です。

 

37.ファゴットソナタ/サンサーンス

サンサーンスの呪いからの解放、おめでとう、トリの名に恥じない、立派な演奏ができて正直僕がホッとしました。

よくやったね、と言ったら、「たくさん練習しました」とこたえた君はとても立派で、たくさんの練習が成果になる、というのは凄いことなんです、特にこの曲では。こんな立派なサンサーンスが流れるうちの発表会はやはりすごいのかもしれません。

あまり改善点、課題等はありません。今できる最高レベルの演奏ができたんじゃないかなと思います。これ以上のサンサーンス、となると、楽器に合ったリードの供給、抜本的な奏法の改善、人生経験、が必要になってくるでしょう。

2楽章ではピアニストに流されてしまいました。「ちがう!ぼくはこう吹くんです!」という攻め方があってよかった、その余裕が欲しかった。流されるのも時には良いですが、早い楽章はそれでは自分の首を絞めてしまいます。惜しかったね。

ハイEは見事でした。あの指はやはり最強だ。

 

 

 

いつもながら講評記事、時間かかるなぁ。笑 でもこれを楽しみにしてくれてる子もたくさんいるので、今後も続けます。

通常記事も頑張ってアップします。お楽しみに。ここまで読んでくださってありがとうございました。