ファゴットの吹きかた

ファゴットの吹きかたとはなんぞや、と日々葛藤するブログです。

第26回門下発表会でした。ちょっと色々始めます。

こんにちは。しっかり春らしくなってきましたね。今日通った道で綺麗に桜が咲いていました。

2年間勤めた洗足学園での仕事が年齢で契約終了となり、4月からはちょっと時間がありそうです。色々と新しく始めようと思っていますので、ここでもまたお知らせしますね。

 

先日、第26回の門下発表会がありました。

 

今回は15名のソロ演奏がありました。レベルアップはもちろんですが、お互いの演奏を聴き、本番後や休憩中に称えあったり感想を言いあったり。この手の交流がコミュニティの良さですよね。

もともと来るもの拒まずなのもあって初めまして同士が結構多いのですが、すぐ打ち解けて仲良くなれるのはファゴット吹き同士のいいところですよね。

やる曲を決め、練習をしレッスンを受け、ピアノ合わせを経て本番へ。人前で5分や10分演奏を聴いてもらう、という時間に向けて、みんな必死に練習するのもあって、終わったあと別人のように上手くなります。とにかく発表することと同じくらい、それぞれが「うまくなる」がコンセプトなのがうちの発表会です。

 

次回は2023年7月16日(日)立川市某所で開催されます。午後以降開演、夜までやっている予定です。

参加費(会場代、ピアニスト謝礼、レッスン代1回分込み)

ファゴットソロ(社会人)15000円

ファゴットソロ(学生)10000円

アンサンブル団体 ひとり6000円(人数によって多少の増減あり)

ファゴット吹きか、アンサンブル団体(ファゴットを含まなくてもOKです!)ならどなたでもご参加頂けますので、ご興味ある方は下記フォームからエントリーしてくださいね。

発表会参加・お問い合わせフォーム

 

さて、恒例の講評記事となります。今回とってもレベルが高かったので、安心して聴いていられましたね!プログラム順に掲載します。

 

1.演奏会用独奏曲/ピエルネ

初参加お疲れ様でした。色んな曲とファゴット吹きと出会うことができてよかったですね。いい刺激になっていると主催してよかったなと思います。

演奏は、もちろん言うまでもなくとっても上手になりました。技術的にもそうですが、きっちりフレーズごとに吹き切ること、ちょっと間違えても先に進むこと、よく心がけて練習ができていたと思います。

ソナタものはピアノに埋もれがちなのですが、しっかり音も前に飛び、バランスが取れていてよかったです。いつもレッスンで言っている「いい音をしっかり鳴らす」ことができていると最低限よく聴こえる音が出てくるのだと思います。またピアニストとのアンサンブルも思った以上にうまくいっていて、いい耳とアンサンブル力を持っているなと思いました。

課題は表現力と、表現に対する欲でしょうか。みんなの演奏聴いていて気付いたと思うけど、「こう演奏したい」という欲から表現は生まれてくるし、そのための技術がほしくなるもの。漠然と「うまく吹けたいいな」と思うのではなく、表現への意欲が生まれてくるとより上手くなるきっかけがつかめるんじゃないかなと思います。またご参加お待ちしてますね!

 

2.民謡風小品より/シューマン

レッスンでも言ったけどとにかく音程が良くなりました。とくに上の音域を楽器の性能に任せて吹けるようになったことが自分でも感じていると思いますが一皮むけるキッカケになったと思います。今の感覚を忘れず、楽器の性能を活かしにいってください。

クセのある表現を強いられる曲ですが、よく表せていたと思います。やりたいことへの拘りみたいなものも感じられて、楽器の音が良くなると欲が出てくるんでしょうね、そこらへんもとっても良かったと思います。あとはそのこだわりを自分一人ではなく、ピアニストと共有して一緒に出していけるようになるといいですね。どこまでいっても室内楽なんですよね。

課題はやっぱり音色のこと。明確な変化がないので、合うところには合うけど合わないところにはとことん合わない。強弱や音程感、発音での表現が良くできているので非常にもったいないですね。「ここはこんな音を出したい、響かせたい」みたいなイメージがもっとあると変わっていくんじゃないでしょうか。音色は操作より前にイメージが大事だと思います。

 

3.アンダンテとハンガリー風ロンド/ウェーバー

難曲を見事に演奏していました。ここ1年くらい、技術的にというか1人の音楽家としてとっても大きく成長したように思えます。持ち前の技術と表現力をうまく曲に落とし込めるようになってきましたね。音程や音色のイメージもよく曲にハマっていました。またいつも思うことですが、ピアニストとのアンサンブルが上手い。耳がいいとかセンスがいいとかいうのもそうですが、共演者に対して真摯であることがきちんと演奏に現れていて、僕は今回の演奏でそこが一番いいところだったと思います。

曲への取り組み方がうまくなってきたので、基本的に今の感じいいと思います。課題があるとすれば、曲をうまくまとめられるようになった一方、まとめにいくと幅が小さくもなる、ということ。いい意味でもっとやりたいことはやっていいし、やってみて「あれ?」と感じる感性があってもいいはず。非常に高水準だったけれど、一方でちょっとずつ物足りなくもあったのも事実です。以前までのようにまとまりなさい!と言ったり、今のように取っ散らかりなさい!と言ったりするのは矛盾しているようですが、きちんと君が成長・変化している証拠でもあると思います。

 

4.朗唱、レチタティーヴォとロンド/ボザ

長らく取り組んできただけあって、抜群の安定感でした。昔から課題だった表現力の部分も、とっても成長したように思います。レチタティーヴォのようなものを吹く機会はあまり多くないでしょうけれど、今回くらい積極的な音楽表現、ぜひ続けてみて。音量だけではなく、発音やら音色やら何やら色々なところからアプローチをかけていけてよかったですね。

技術的に不安を感じたときに表現が消極的になるのは悪いクセ。不安なときこそ思いっきりいきましょう!

シシリエンヌ、とっても素敵でした。ここ好きじゃないファゴット吹きいないと思うけど、とても素敵な演奏ができていました。それだけにハイEがね・・・。形にはなったけど、まだまだ。次いつハイトーンに挑戦するかわからないけど、音出しやリード試奏でのチャレンジをし続けてみましょう。指も忘れないように。

ロンドは余裕ありそうだったし、もっと攻めたテンポでもよかったですね。テンポも大事な音楽表現の選択肢だから、こだわっていきましょう。

苦手意識あるかもしれないけど、今度はバロックものに挑戦してみるのはどうでしょうか?また色々と発見があるんじゃないかな。

 

5.ロマンス/エルガー

復帰1曲目には重い選曲だったでしょう?僕に言われるまでもなく感じたと思いますが。笑 それでもきっちり仕上げてきたのはさすがですね。とにかく色んな譜面を「きっちり」演奏すること、その成功体験を積み重ねることが今は大事なんだと思います。その「きっちり」が自分でなかなか分からないのが君のファゴットの一番の問題点で、分かってさえしまえばとってもいい演奏ができるということ、今回の本番で理解してくれたら僕はとっても嬉しいです。

成功体験を積み重ねていきましょう。今は難しい譜面を吹く必要はないでしょう。

ピアノとはよくアンサンブルできていると思います。そこもこだわりがあったのでしょうが、テンポへの乗り方がほんの少しずつ遅く、またそれをごまかすためにちょっとずつ速くしていく、みたいなありがちなクセがなかなか抜けませんので、やっぱり自分自信でテンポとリズムを理解しかためることが大事だと思います。演奏自体の技術や表現力は言うことなしです。総じて難しい曲をよく演奏できていたので、スタートラインをもっと高くできるように。この場合のスタートラインというのは、オケで言うところの初合奏に当たるんでしょうね。

 

6.15の中級ソロより/arr.スパーク

初参加お疲れ様でした。奏法を中心とした基礎的なところをじっくり見ることが多く、曲に関してはあんまり触れることもありませんでしたが、本番はメリハリもありいい演奏ができていたと思います。レッスンで触れた奏法のところは、なおった分だけやはり良いですね。無駄もなくなるし、結果的に表現へ活きています。これから直す、というところもあると思いますので、引き続き気を付けていきましょう。

チューニングですが、オケだろうと室内楽だろうと、音質に気を遣いましょう。原則として、基準音より大きな音を出さない(基準音が聴こえなくなるので)こと。音程のチェックだけではなくて、基準音に対して自分の音がどう響いているか聞くこと。言い出せばキリがないですが、管楽器のチューニングはパフォーマンスでもあることをお忘れなく。ちょっと無神経な音でした。

僕は奏法や技術だけを見る、というのがあんまり得意でも好きでもないので・・・ぜひ次回はオリジナルやそれに準ずる曲を持ってきてほしいところです。

 

7.組曲/タンスマン

考え方色々あると思いますが、やっぱりステージ上なので、楽器を床に直置き、やめましょう。せっかくの素敵な衣装もステージ上のふるまいで台無しでした。大切なこと、ですよね。僕はシートストラップユーザーなので、いつもスタンドと一体です。

前の講評でも言った気がしますが、音程が良くなりましたね。チューナーで真ん中、とかつまらないことを言うつもりはなくて、ピアノの音程にピタリとハマるところが聴いていて非常に心地よく、とっても純正律してました。これぞオーケストラ楽器の真骨頂ですね。

フレーズの長さが天敵であるところですが・・・そこを苦にして居らず、タンスマンの魅力をよく表現できていました。一方で、聴かせる音と引く音の差があまりなく、フレーズ感はあるのに音楽の濃淡といいますか、メリハリは少なく聴こえてしまっていました。単純にフォルテはもっと出てもいいし、ピアノはもっと攻めてもよかったかもしれません。安定することと表現すること、両立ってとっても難しいのですが・・・表現に消極的になったらオシマイです、もっと色々仕掛けていきましょう!

 

8.ソナタヘ短調/テレマン

リズム、フレーズ感ともにとっても良かったです、分かりやすいようで意外にもつかみどころのない曲なのですが・・・よく表現できてしました。即興的なところも音楽の表現を活かすことができていて、直前レッスンが無駄にならずよかったです。聴いている限り、スタミナもなんとかなっていました。これ、本当にすごいことだと思います。

またピアノ、というより通奏低音パートとファゴットのパートがよくアンサンブルできていました。基本的には2声だけなのにこの濃度の高さ、バロックものはやっぱりいいですね。魅力を活かせていました。

安定感のある演奏だったのですが・・・ハッとするようなフォルテやピアノがなかったのが少し勿体なかったでしょうか。スタミナ管理の都合上仕方ない部分もあるのでしょうが、山場がハッキリ聴いてわかる、というのは予定調和が基本のクラシック音楽においては必須じゃないかな、と僕は考えています。楽章ごとに山場を1か所か2か所でいいので、決めておくとよりよかったと思います。

 

9.レチタティーヴォアレグロ/ギャロン

やりたいこと、が明確に見える演奏でした。そのためにしっかり準備できていたこともとってもよかったです。やはり「やりたいこと」のために技術というものはあるし、そのための練習方法はよく心得ているから、あとは場数かな、という感じがします。その場数というやつがなかなかに厄介で、踏むうちに荒くなったり、なぜだか技術的に衰えたり、色々あると思いますがそれ含めて成長なので今後も自分でよく考え練習していってほしいです。

安心して聴いていられる演奏だったか、というとやっぱり・・・。安定感はやっぱり以前までの方があった。それは演奏に欲が出てきた結果でもあるのですが、やっぱり安定感というのも一つ大事な要素だと思います。練習時の小さな傷を見落とさずきっちり楽器を通してソルフェージュをしていくことを怠らずに。難しいところを練習するだけが練習じゃない。またリズムに関してはかなり甘かったので、もっともっと厳しく。リズムは数学なので、レッスンでいくらでも言って差し上げますが、自分でもっと数えられるように。録音録って聞いてみるのもいいでしょう。

色んな楽譜をきっちり読む場数、たくさん踏んでいきましょう!

 

10.スケルツォ/ミロシニコフ

色々とハンデのある中、しっかり準備されてて素晴らしかったと思います。レッジェーロの表現というのは勇気が要るんですよね・・・一つ間違えば痩せた音になってしまうし、得意不得意もかなりあります。よく表現できていたと思いますが、やはりスケルツォという作品においては、もっともっとはっきり短く滑稽に音を並べてもよかったかもしれません。ただその分と言いますか、楽器は効率よく鳴っていて、ピアノが厚いところでもよく聴こえてきました。そこの塩梅は難しいところです。

途中の抒情的なところはさすがの表現力でした。ビブラートが少し浅く早いのが気になりますので、もう少し楽にコントロールする方法を探してみるといいかもしれません。

またリズムを活かそうとするとやはり拍感が乱れてしまうのも気になりました。要するに短く吹くと転んでしまうのですが、これも短い音を用いた音楽に慣れるとまた違ってくると思います。レッジェーロの音楽への経験値をもっと増やしていくといいかもしれませんね。

また演奏聴けるのを楽しみにしてます!

 

11.朗唱、レチタティーヴォとロンド/ボザ

音色の変化がとっても魅力的な演奏でした。音量だけじゃなく音色が変わることでファゴットの表現はどこまでも幅広くなりますね、あらためて思いました。甘い音、太い音、深い音、痩せた音などなど・・・言語化するのは簡単ですね。とにかく変化に富んだ演奏で聴いていてとても楽しめました。

中・低音域のピッチはちょっと気になったかな。基本的に高いことが多いです(普通のことなんだけど)それもハイトーン仕様と思うとやむをえませんが・・・そーいうリードでいかに下げるか、も慣れでしょうかね。低音はどうにもならなくても、中音域は気にすればもっとどうにかなったんじゃないかな。いい音程を吹くとピアノがうまく聴こえてくるんですよね。ハイEはなんとかなってよかった。直前で小さくしていくとうまくいかないので、そこはちょっと攻めすぎでしょうか。

連符の後ろの方が少し投げやりに聴こえがち。丁寧に処理するところ、先に向かうところ、パッと止めるところ、色々あっていい曲だったと思うので気を付けてみて。

それでも安定感はやっぱりさすがでした。練習の質と量のバランスがよかったんだと思います。その調子でやれるといいですね!この曲みたいに簡単じゃない曲が多いですが・・・

 

12.ファゴット協奏曲第1楽章/シュターミッツ

安定感抜群、かつ制約の多い曲ですがきちんと演奏できていました。また圧倒的に音抜けが良かったですね、きちんと楽器が響いている=いい音が出ている、ということだと思いますのでその方向性で鳴らしていきましょう。

緊張もあったんだろうけど、音を出していない短い休符とか伸ばしている時に拍感を見失うのは良くない傾向だと思います。特に伸ばしている間は、ただ数えてるだけではなくオケの音をきちんと聴いて乗っかる必要があります。すこしクレッシェンドなどをかける、などは簡単ですが・・・まずはきちんとカウントを取ることから。それは合わせどうこうではなく、自分の練習でやる習慣をつけましょう。

あとは全体的に優等生な演奏だったので、音量やら発音やらビブラートやら何やら、とにかくもっと変化をつけましょう。やっているつもりでも、伝わるにはもっと仕掛けないと。何事も、まずはきちんと人に伝えるところから。

色々言いましたが、精度の高いいい演奏だったと思います。他の人の演奏で色々刺激もあったかな?

 

13.シシリエンヌとアレグロジョコーゾ/グロヴレ

堂々としたいい演奏だったと思います。楽器を鳴らすのがうまいので、華のある音色がよく響いていました。音域が変わってもフォルテでもピアノでもそれが失われないのは素晴らしいことで、アンサンブルなんかだと周りを助けることでしょう。変なクセもなくなったのでぜひやってみて。

華のある音はいいのですが、音色の変化がほとんどないのは気になりました。大きい音と小さい音はあるのですが、それだけ、とも言えます。めいっぱい華のある音はいいのですが、そればかりでは飽きがくるし、強弱と音の長さだけで表現しきるほどファゴットはレンジが広くないので・・・。例えばピアノでも細い音と優しい音と甘い音、フォルテなら強い音キツい音太い音などなど・・・いうのは簡単ですが、とにかく「ここではこんな音色を出したい」とまず思うところから。そのために技術的に音の出し方を工夫していけば自ずと変化は生まれてくると思いますので、少し考えてみて。

とはいえミスも少なく精度が高く、基本的にはとても変化に富んだ演奏でした。

 

14.ファゴット協奏曲/ウェーバー

全楽章やると見えてくることがあるね。吹く側も聴く側も。

積極的に仕掛けていく、魅力的なウェーバーだったと思います。レッスンのときは単調でしたが本番は別人のようでした。また低音のタンギングがとてもうまいですね、ウェーバーやる上では大事な技術です。

1楽章は、箇所ごとのキャラクターの違いをもっともっと出していければよかったと思います。ちょっと滑稽なテーマ、甘々のアリア、迫力のある技巧ポイントなどなど。積極的にテンポの変化を使ってもよかったかもしれません。それはピアニストとの連携が必要になってきますが・・・2楽章はちょっと音程が気になったかな。積極的にいくときに一番気にするべきは音程。それを損なっては台無しになってしまうことも多々あります、今回はそこまでではありませんが。でも歌心のある演奏で、僕の伝えたいことはちゃんと伝わっていて嬉しかったです。3楽章は圧巻。1楽章と違ってキャラクターの違いが明確で、曲の魅力が抜群に活きた演奏でした。

やはりウェーバーは大曲ですね。

 

15.3つのロマンス/シューマン

やるもんじゃない、と(お互い)言いながらも、うちの発表会でこの曲史上最高の演奏だったと思います。そうそう更新されないでしょう。よく理解し、よく感じ演奏できていました。

技術的なことで言うと特定の音のビブラートのときに音程が下方向にブレるクセがあるのでそれが少しもったいない。また体力的なことと曲の難しさからだろうけど、少し守りに入った演奏には聴こえたかな。それゆえの完成度だとは思うのですが・・・もっと聴いている人を震えさせるようなフレーズがあってもよかったかも。そこらへんはお好みでしょうけれど・・・

あとこの手の曲だからこそ、強いアタックを使うべきところでちゃんと使ってほしかった。全部柔らかい発音なので、大事なところで変化に欠けることが(例えば2楽章の中間部とか)あるのも惜しかった。またバテからくるでしょうが音の処理が曖昧なところで明らかにエラーが起きているので録音で確認してみて。口離すのとブレスに集中しすぎず、音の処理にももっと神経を使ってみて。

でもそのくらいかな。とにかく完成度の高い演奏だったと思います。