ファゴットの吹きかた

ファゴットの吹きかたとはなんぞや、と日々葛藤するブログです。

第18回門下発表会でした。講評と発表会開催への想いについて

お久しぶりです。

第17回が抜けてるぞ、とか、久しぶりの発表会ですね、とか、このブログまだあったんですね、とか、色々言われそうですが・・・。

第17回は間際まで開催の方向で動いていましたがやむなく中止となりました。ある意味、それを忘れないためにも今回の発表会は第18回としました。

第18回の発表会は某ウィルス対策として、リスクを最低限にするため会場にお客様は入れずオンライン配信(これについては後述)を行い、またピアニストも呼ばず無伴奏もしくはエチュードのみ、またアンサンブルのエントリーはお断りし、稀にみる小規模開催となりました。参加者は7名。また僕の親しい同業を何人かお招きし、演奏もして頂きいました(ゲスト、という扱いにはできませんでしたが・・・)

参加者の中には某ウィルス禍以前と変わらないペースで練習を続けている人も多く、緊急事態宣言後、すぐにレッスン開始(できうる限りの感染拡大対策は行っています)し、着々と力をつけていることに僕は先生として感動を覚えるばかりでした。僕は練習は本番のためにすればいい、レッスンはその成果をより実践的に仕上げるもの、という考えを持っているのですが、生徒たちの方がよっぽど意識も行動もハイレベルでした。脱帽。

 

このブログでも何度か書いているとは思いますし公言もしているのですが、この門下発表会は「普段オケや吹奏楽などで練習している楽譜よりもずっと難しく、しかもすべての音が客席にダイレクトに聴こえる(いわゆる)ソロ曲を演奏する機会を作ればいっぱい練習するし手っ取り早く上手になるはず」というコンセプトのもと行われており、ほとんどの人があらゆる演奏機会を失ってしまった今、どうなってしまうのか、と思ってはいたのですが・・・。僕自身がアレコレ考える以前に、ある人は日々練習を重ねレベルアップするため、ある人はブランクを取り戻すため、「来るべき日」に向けて力をつける手段として存在していければいい、と、そう身に沁みました。

できうる限りの対策を取ったうえで、次回以降また、開催していければいいなと思っております。日時場所など未定ですが、決まり次第このブログでもご案内していこうと思います。

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ここからは第18回発表会の講評記事となりますので、出演者以外の方は読み飛ばしを推奨いたします。

 

1.無伴奏パルティータよりアルマンド/J.S.バッハ

技術的な成長をすごく感じました、無伴奏曲を聴いていて安心できる、というのはすごいことだと思います。

出だしつまづくことが多かったのは、ある種無伴奏特有の概念なのですがピアノ合わせがないため、練習にリアリティがなく本番を想定したイメージトレーニングが足りなかったためだと思います。慣れてからは安定感抜群だったので、そこは今後の課題としていきましょう。

音の濃淡もよく表現できていたと思います。誰もが苦戦するところをよく表現できていたのですが、その分、と言いますか、本来そちらの方が簡単はなずなのですが全体の抑揚そのものが足りませんでした、山をいくつか設定し、そこまでしっかり音量の変化を持っていく、等の工夫があればもっとよかったのではないでしょうか。落ち着いた演奏ではあるのですが、心が震える、という領域には一歩、届かない印象でした。技術的には、普段からもっとフォルテ、フォルテ、フォルテ、で音を出しましょう。きれいな音はフォルテがあってこそ活きるものです。

 

2.無伴奏チェロ組曲第1番よりアルマンドジーグ/J.S.バッハ

文句なしMVP。アルマンド、最後のレッスンより本番の方が良かったと思います。

流れを作るのがとにかく上手く、「そうそうこーいう曲なのよこれ」と思って聴ける演奏でした。また楽器のポテンシャルが高い故に難しい音の濃淡もよく表現できていました。その楽器でそれだけ淡い音がコントロールできれば、人と(ピアニストと)演奏した時より表現の幅が広がるはず。感覚として忘れないでいてほしいと思います。

あまりレッスンで触れる余裕がなかったこともありましたが、もう少しアゴーギグがあってもよかった。表現についてはそこが唯一気になるところでした。

技術的には、音楽のピークかつ中音域以上において、気を抜くと音程が許容できる範囲以上にぶら下がってしまうこと。ぶら下がったフォルテはある意味気持ちいいものですが度を越えてしまうと・・・・。フォルテで音程がぶら下がる傾向は楽器がよく鳴っている証拠でもある(と書いてしまうとどうかと思いますが、少なくとも逆はあまりないです)のですが、そこから先はいかに自分を冷静にコントロールできるか、という領域なのかもしれません。

ジーグは色々と届かず。それを差し引いても今回いちばんいい演奏でした。今回をいい踏み台にできますように!

 

3.ワイセンボーン2巻より44番

何度でも言いますが本当によくこんなややこしい曲を持ってきました。少人数ながら色んな(メーカーの)楽器や技術の人が集まった回ですが、ダイナミクスレンジの広さが本当にずば抜けていました。発音と楽器の鳴りを合わせるのがとても上手くなったと思います。

以前はもっと荒い演奏が目立つところがありましたが、ある意味こんな状況下だからこそ自分のファゴットによく向き合えたためかいい意味で落ち着いた印象も感じました。また音程もすごくよくなってきました、次オケに乗る機会があったら、きっと自分の進歩に気付くはず。

色々褒めましたが今回の演奏で一番いいなと思ったのは、テンポ変化だったり曲想の変わるところでの雰囲気づくりの旨さです。つくりたい世界観を1音目(もしくはその直前のブレス)でしっかり見せてくれるので、変奏をより楽しめる演奏になっていたなと思いました。

この繊細さや表現力、ぜひキープして!次回も楽しみにしています。

 

4.無伴奏パルティータよりアルマンド/J.S.バッハ

今回は枠が余ることが想定できたため、数人ファゴット以外の方にもお声かけしました。結果この人だけ出演となりました。でもすごく楽しんで準備してきてくれたようで、また紹介した先生のとの相性もすごくよかったんじゃないかなと思います、ぜひ今後もたまにでいいから通って成長していってほしい。

演奏自体の講評は先生から聞いてもらえればいいと思います、が、僕なりに少し。

バロック作品のキモはバスの音です。楽器の性質上難しいのかもしれませんが、もっとバスの音による音楽の支配が欲しかった。それがないので、悪い意味でフワフワした印象になってしまいます。音楽の流れ自体はよく作られているからこそそこが惜しかったなぁ、と思いました。

次回はアンサンブルでぜひ!またご案内します。

 

5.無伴奏チェロ組曲第3番よりブーレ1/J.S.バッハ

オンラインレッスン1回のみでよく仕上げてきた、と思います。対面でなくこの手の曲のアレコレを伝えるのも難しければ受け取るのも難しかったと思うのですが、そこは持ち前のセンスと勤勉さが良く発揮されていたなと思います、さすが。

ハツラツとした曲なので出だしの印象が抜群にいいのですが、ブレス明けがすべて元気いっぱい出てきてしまうので、ブレスを取る、発音の準備をする、柔らかく発音する、の3ステップの技術を今一度見直して。またよく鳴るいい(新しい?)リードは気持ちいいですが、音程が下方向に散ることも多いです、そこは冷静に見直して。

ある意味、ブーレ2も取り組んでいれば1に活かせることが多かった気もしますね・・・・。次回は繊細な表現とダイナミックな表現、どちらもあるような曲に挑戦できれば、幅が広がっていいんじゃないかと思います。

とはいえこの状況下、よく挑戦してくれました。ありがとう。

 

6.無伴奏パルティータよりアルマンド/J.S.バッハ

満を持して登場、という印象、なのは僕が組んだ曲順のせいでしょうか。笑

別の人への講評にも書いていますが、出だしのトラブル多発は、ピアノ合わせのない無伴奏本番にありがちで、本番へのイメージが足りないまま本番に来てしまうとありがちです。目をつぶり本番会場をイメージし吹き始める、というイメージトレーニングは、この手の曲を演奏するうえで絶対に必要なことかなと思います。

この曲が(全員違う調で!)3人いる中、もっともよく理解し噛み砕き洗練された演奏だったと思います。聴きどころも多く表現力もとっても豊かでした。特に高音域の伸びの良さが素晴らしかったと思います、宝物にしていってください。

アゴーギグも大変すばらしかったのですが、伸び縮みで表現するなら少し縮み過ぎで、伸びがもっとあってもよかったかもしれません。もしくは伸び方に問題がありました。それゆえ慌てて聴こえてしまう箇所が少しあったのが惜しかったのですが、それは攻めた演奏だったのでもう一息練りがあればうまく昇華されていたんじゃないかなと思います。

いつもと少し様相の違う門下発表会ではありましたが、今後もよかったらぜひエントリーしてください!お待ちしてます。

 

0.ワイセンボーン2巻より25番

オンライン参加。

大変精度の高い演奏だったと思います。ブレスの差し込み方なんかも大変うまく、よく練習したと思います。そして親指の使い方がよくないとここまで綺麗なオクターブ跳躍もできないですから、丁寧な練習の成果ですね。

元々音楽的な内容が薄い曲だかこそ、強弱の表現はもっとこだわっても良かった。変わってないとまでは言いませんが、pの表現に限界のあるパッセージですからもっとfを強く。多少荒くても良かったかもしれません。最後2小節はfで終わる、というのも、ちょっと伝わってこなかった。そこが惜しいところでした。

こんなご時世になるとは、と誰もが思ってるところでしょうが、色々苦労も多いかと思いますが、この会は僕がこの仕事を続けてる限りやり続けますので、今度は直接演奏を聴けるの、楽しみにしてます!

 

0.ワイセンボーン1巻よりes-moll

オンライン参加2人目。

録音での参加なのに多方面で後日話題になりまくったのはこの演奏でした。本人以外のために先に言っておくとこの彼は「エチュードで参加しますが、曲はレッスンの進み具合で決めます!」と、ある意味すごくストイックにレッスンに通い続け、(よりにもよって)この曲になった、という事情です。

嫌な調性であることはもちろん、アンダンテで付点のリズムを演奏し続ける、というのは体にちゃんとリズムが入っていないと難しく、また慣れない音列も多く音程が取り辛く、そして最後に出てくる突然のシャープ系でより絶望する、という嫌な曲のはずなのに・・・いい意味でどの難しさも感じさせない名演でした、このクオリティでこの曲が吹けるアマチュア奏者が世の中に一体何人いるでしょうか(言い過ぎ?)

褒めるのは誰でもできるので、先生らしいことを言いましょうか。付点のリズムにおいてフリックキーは生命線です。ほとんどうまくいっていますがオケ中だともっと難しい音列も多く、テンポが速いこともあります。フリックを逃すことのないよう、もっと4親指の練習に時間を使ってほしかった。また高音域はもっと的確に狙えるように。口が閉まると上のGesはあたりづらくなってしまいます。あと最後の1段は本当にうまかったと思います、この感覚を忘れる事のないように!

 

 

※「オンライン参加」について

今回、無観客でオンライン配信の予定だったのだが、会場からオンライン配信NGとのお達しがあったため、録った録音をリアルタイムでアップロードしていき、そのアップロード先のドライブを観客希望の人と共有する、という形を取りました。オンライン参加の2人は本番の数日前まで参加する予定だったしレッスンも受けていたのだが諸々の事情で参加が叶わなくなってしまったため、当日みんなの本番が終わるまでに録音を送ってもらい、ドライブ上において参加する、という形式を取ることができました。